本「将棋の子」大崎善生 著

「聖の青春」つづいて大崎作のノンフィクション小説を読了。
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奨励会はプロの棋士になるための養成機関のようなもの。しかし、プロ(四段以上)でなければなんの保証もない。その時に在籍する奨励会員の中を勝ち抜かなければプロにはなれない。完全に実力勝負の厳しい世界である。
奨励会には満二十三歳の誕生日までに初段、満二十六歳の誕生日を含むリーグ終了までに四段になれなければ退会という年齢制限規定がある。
紙一重の差でプロになれた棋士もいれば、退会して去っていく若者がいる。両者には実力という以外の運としか言いようのないものが作用しているとしか思えない力が働いているように見える。
中学生くらいから、ただひたすらに将棋に打ち込んで、すべてを傾けて取り組んだ結果が、たった一勝で明暗をわける場合がある。
勝負と言ってしまえばそれまでだが、あまりにも非常な世界である。
青春時代に挫折はつきものだが、奨励会の世界はそれが非常に先鋭的にあらわれて、その青年の一生をも左右しかねない。


人生を筋書きのないドラマ、ゲームだと考えれば奨励会のような切羽詰まったプレッシャーのかかる環境は、スリルいっぱいのエイサイティングな世界とも言える。
いくら努力して用心しても、必ず予測不可能な困難とううものは人生につきものである。


結局はそれに直面したときに、その瞬間にどうするかという個人の選択にかかっている。それは、もしそうなっったらなどという仮定の話しではではとうてい予想できない、それぞれの生き様が如実に現れてしまう瞬間瞬間なのだと思う。


作者の奨励会員にたいする温かい眼差しが前編を通して伝わってくる。構成が登場人物を浮き彫りにする絶妙な配置になっていて、さらに胸に深くせまって来た。